“新・堕落論―我欲と天罰” by 石原慎太郎(新潮新書)

新・堕落論―我欲と天罰 (新潮新書)



堕落というより幼稚化だ

東日本大震災に際して、著者が「天罰」と発言し物議を醸したことは記憶に新しい。被災者に対してではなく、日本人全体に対する言葉だということは容易に理解できたが、大手メディア(マスゴミ)は例によってバッシングに終始した。本書は副題にその「天罰」という言葉が使われているが、巻末を見ると、第1章の原文は文藝春秋2010年12月号「日本堕落論 このままでは日本は沈む」だ。つまり震災前から天罰という言葉を使っていたわけであり、震災の被災者に対するものではないことは自明である。
著者の本を読むのは初めてだが、難解な言葉と一般的でない外来語のカタカナ表記(例えばセンチメント)には正直なところ閉口した。
著者は「平和の毒」が日本人全体を蝕んでいるという。アメリカという間接的支配者に国家の自主性を委ね安易な他力本願が平和の毒を培養したのだと指摘する。大人たちの物欲・金銭欲・性欲、経済至上主義、ゆとり教育による教育の荒廃が日本を堕落させており、占領軍によって与えられたあてがい扶持の憲法を最良のものと信じ込まされている。アメリカにすべてを依存するという徹底した他力本願と自己放棄が今の日本の姿である。
かなり偏った考えだと糾弾する意見も多いかもしれないが、上辺だけは平和な日本の姿を保ちながら、最近でもTPPなどを利用したアメリカ(国家や政府や富裕層など)の日本支配・侵略が着々と進められている。従来から、アメリカ(国家や政府や富裕層など)の日本に対する考えは、対等なパートナーではなく、富を搾取する対象である。
福田和也の言葉「なぜ日本人はかくも幼稚になったのか、幼稚とは何が肝心かということが分からないもの」を引用して紹介しているが、日本人は堕落したというより幼稚になったという方が正しいかもしれないと感じた。

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内容(「BOOK」データベースより)
列島を揺るがせた未曾有の震災と、終わりの見えない原発事故への不安。今、この国が立ち直れるか否かは、国民一人ひとりが、人間としてまっとうな物の考え方を取り戻せるかどうかにかかっている。アメリカに追従し、あてがい扶持の平和に甘えつづけた戦後六十五年余、今こそ「平和の毒」と「仮想と虚妄」から脱する時である―深い人間洞察を湛えた痛烈なる「遺書」。

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