世界を知る力 (PHP新書)
寺島氏はTV番組でも的確なコメントをする方として好感を持っていたことが、本書を読むきっかけだ。
まず冒頭で、戦後の日本人は「アメリカを通じてしか世界を見ない」と断言している。これはアメリカの一極支配に盲随していた小泉政権を強く意識した言葉だと思う。終戦直後は仕方ないにしても、小泉政権のアメリカべったりは異常だった。寺島氏が鳩山政権のブレーンだと言うことは知らなかったが、オバマの「グリーン・ニューディール」と鳩山の「友愛」が相乗効果をもたらして、新しい日米関係構築のきっかけになるかもしれない。「米国のための構造改革」から「米国との対等な関係」に舵を切ろうとしていることは、アメリカ一辺倒を解消し、真に自立した日本をつくるためにも好ましいのではないかと感じた。
また本書では、大中華圏(グレターチャイナ)、ユニオンジャックの矢(ロンドン、ドバイ、バンガロール、シンガポール、シドニーが地理的にほぼ一直線上に並んでおり、言語、文化価値、社会的インフラが共通している)、ユダヤネットワーク(国家という枠組みを超えた価値観)の存在を指摘し、これらの世界的ネットワークにも目を向けるべきだと書いている。さらに、分散型ネットワークが繋がったインターネットの発展によりIT革命が起こったと同様に、小規模・分散型の再生可能エネルギー(グリーンエネルギー)が、ネットワーク技術と融合して普及していくだろうと予測している。
いずれも、目先の固定観念を捨てて、世界を見よう、知ろう、そして世界に踏み出すべきだということを言いたいのだと思った。
その他、本書では、かなりいろんなことが語られている。
・昔の日本人はもっと自由にロシアや中国やヨーロッパと直接交流をしていたことを挙げている。ロシアのサンクトペテルブルクには1705年に日本語学校があったこと、空海が中国から持ち帰った多くの技術(真言密教だけでなく、土木工学や薬学の知識も)のことなど知らなかったことが多かった。
・世界を動かしている、目に見えない世界レベルのネットワークの存在を例示している。
大中華圏
広義の中国チャイナとは、グレターチャイナのことを指す。中華民族、華僑6000万人
ユニオンジャックの矢
ロンドン、ドバイ、バンガロール、シンガポール、シドニーは地理的にほぼ一直線上に並んでいる。
言語、文化価値、社会的インフラ(法的な仕組みなど)が共通している。
ユダヤネットワーク
世界を変えた5人のユダヤ人(モーゼ、キリスト、マルクス、フロイト、アインシュタイン)1500万人
国家という枠組みよりも国境を越えた価値を重視する視点(ユダヤグローバリズム)
無から有を生み出すことに最大の価値を見いだす視点(高付加価値主義)
・IT革命というパラダイム転換
アメリカの軍事ネットワーク技術が民生転用されインターネットとして発展し、アメリカの復活の原動力となった。
・再生可能エネルギー(グリーンエネルギー)は小規模・分散型であり、ネットワーク技術と融合して普及していくだろう。ITもエネルギーも分散型ネットワーク革命をもたらすだろう。
・賛成はできなくても、相手の主張の論点は理解したというagree to disagreeという姿勢が大事である。
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内容(「BOOK」データベースより)
世界同時不況のさなか、日本には民主党新政権が誕生した。冷戦が終結して二〇年が過ぎ、長く続いた戦後体制は名実ともに変わろうとしている。日本と世界は今どこへ向かっているのか?長く世界潮流を観測してきた著者が、"時空を超える視座""相関という知"を踏まえて、"分散型ネットワーク時代"の新たな展望と日本の針路、いま最も必要とされる「全体知」のあり方を提示する。米中二極体制をどう考えるか?極東ロシア、シンガポールの地政学的な意味とは?「友愛」なる概念は日本の未来を拓くのか。
目次
第一章「時空を超える視界――自らの固定観念から脱却するということ」
第二章「相関という知――ネットワークのなかで考える」
第三章「世界潮流を映す日本の戦後――そして、今われわれが立つところ」
第四章「世界を知る力――知を志す覚悟」