2010年7月アーカイブ

レディ・ジョーカー〈上〉 (新潮文庫)
レディ・ジョーカー〈中〉 (新潮文庫)
レディ・ジョーカー〈下〉 (新潮文庫)




1997年に「グリコ・森永事件」をヒントに執筆された単行本を、今回全面的な改訂を行い文庫化したものだ。巨大ビール会社を脅迫する犯人とその事件に関わる人物の生き様を丹念に描いている。
犯人は競馬仲間だが、それぞれ生きていく上で鬱積したフラストレーションが溜まっている。物井の実兄はビール会社に勤めていたが、退職後は報われない人生を送り亡くなった。孫はビール会社の就職活動中に事故死した。脅される側のビール会社の社長にも人に言われぬ負い目がある。捜査する警察にも、新聞社にもいろんな事情があり、いろんな人物が関わっている。人それぞれに過去があり、不満があり、固執するものがあり、ということだろう。
タイトルの「レディ」とは、犯人の一人の身体障碍者の娘のことであり、「ジョーカー」とは、トランプのジョーカー、つまりババのことである。運命とはいえ身体障碍者として生まれた者、社会の底辺でしか生きられない者、・・、それらの不条理さがタイトルになっているような気がする。
また、個人が所属する組織や社会の中で演じなければならない自分と、そうでない本当の自分とのギャップを埋められない苦悩が、あちこちに描かれている。生きるということ、他人と関わるということは、結局ある自分を演じることではないかと考えさせられた。
高村薫の作品を読むのは初めてだが、心理描写の緻密さ、表現の多様さには驚かされた。単純明快に結論を出せる人は少なく、ああだこうだと心の中で反芻しながら何らかの結論を導き出すものだ。また、他人への怒りがだんだんと高まっていくときの心理描写もすごいと思った。
また、警察と新聞社の関係、地検特捜部の当事者との裏交渉、政治家と裏社会との関係なども、各所に織り込まれており、実際にもこういうことが行われて、報道され、捜査され、政治が行われているのだと感じた。

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内容(「BOOK」データベースより)
空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く―。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。ジャンルを超え屹立する、唯一無二の長篇小説。毎日出版文化賞受賞作。
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内容(「MARC」データベースより)
「要求は20億。人質は350万klのビールだ。金が支払われない場合、人質は死ぬ。話は以上だ。」 一兆円企業・日之出麦酒を狙った未曽有の企業テロはなぜ起こったか。男たちを呑み込む闇社会の凄絶な営みと暴力を描く。

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