bookの最近のブログ記事

インシデント



予想外の結末、しかしイマイチ感が残る

「アンフェア」シリーズ原作者による書下ろしの医療ミステリー。「インシデント」とは医療事故のことだ。
書評とはいえ、ミステリーの種明かしを書くわけにはいかないが、予想外の結末だった。医療事故ではなかったということ。女子高生のさやかも同級生の悠も死んでしまったということ。
また、期待しすぎたのかもしれないが、ちょっとイマイチ感が残った。あまり深く考えずに、ミステリー小説として楽しんだ方が良いのだろうか。

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内容説明
「アンフェア」著者が贈る医療ミステリー 脳外科医の桧山冬実は、世界初となる脳幹部海綿状血管腫の手術に挑むが......。「アンフェア」シリーズ著者が贈る緊迫の医療ミステリー。

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内容(「BOOK」データベースより)
女子高生のさやかは、脳機能iPS細胞再生術を用いた世界初の脳外科手術を受ける。執刀医は、日本随一のオペ技術を持つ天才女医・檜山冬実。しかし、誰もが手術の成功を確信する中、悲劇は起きた。それは医療事故だったのか、それとも罠なのか。現代医療の矛盾に迫る緊迫の医療ミステリー。文庫書下ろし。

成熟ニッポン、もう経済成長はいらない



成熟ニッポン、そんなに成長して何になる

「せまい日本そんなに急いでどこに行く」の書き出しから始まる本書は、言わば「成熟ニッポン、そんなに成長して何になる」についての対談録だ。

本書の主旨は、日本はこれ以上生活水準をあげる必要はなく、優雅なる老衰国(大人の生き方)のモデルを示すべきだということだ。
この主旨には大いに賛同するが、現に顕在している雇用の空洞化や格差拡大の問題は早急に解決すべき課題である。

以下は要点のまとめ。
・かつては、経済成長によりキャッシュを稼ぐことが必須だったが、今の日本は潤沢なストック(社会インフラ、貯蓄など)が整った成熟債権大国になっている。成熟段階を迎えているのに、いまだに成長戦略しかたてられない、成長しないと不安になるというミスマッチ状態が問題である。
・昔の日本は1億総中流と言われるほど格差が小さく、普通の一般のレベルが非常に高い社会だったが、アメリカ化によって格差社会になってきた。また、有縁社会(血縁地縁社縁)から無縁社会に移りつつある。
・個人主義の台頭は社会的成熟度の高まりという側面もあるが、社会保障も含めて国家社会が全員でリスクを背負う北欧型を目指すべきである。造語だが国縁という考え方が良いのではないか。
・円高ではなくドル安になっている。基軸通貨としてのドルの地位が低下している。アメリカもそれに逆らわず、むしろドル安による輸出倍増を狙っている。TPPにより市場囲い込みをして、自国からの輸出を優位にしようとしている。
・日本は、外から見れば全体として非常にしっかりとまとまっているように見えるが、一歩中に入って部分部分に解体してみると、てんでバラバラである。解体の
・繁栄から衰退は歴史の必然である。これには絶対逆らえない。日本は老大国として成熟した国になればいい。パックスブリタニカが終わったからといってイギリスが消滅したわけではない。
・マイナス成長はまずいが、ゼロ成長やそこそこの成長でも良いではないか人間の欲望を満足させるために未来永劫右肩上がりの経済成長を目指すのは短絡思考である。
・産業の空洞化はないが雇用の空洞化は起こる。雇用・格差は大きな問題である。争奪から分かち合いの時代へ移行すべきで、ワークシェアリングを取り入れることが有効だ。欧州には成功した国があるので参考にすべきだ。
・ユニクロについては、低賃金の労働者に買える価格にするためにさらに賃下げをするという価格競争・賃下げ競争の悪循環に陥ることが大きな問題であり、ダイナミズムのみに注目して礼賛するのは間違いである。

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内容紹介
ひたすら成熟化する日本経済。GDP2位の座を中国に奪われるなど地位低下が著しいが、2人はそろって「大丈夫。まったく心配いらない」。世界はどうなり、日本はどこに活路を見いだせばよいのか。碩学と気鋭の学者が語り尽くす!

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内容(「BOOK」データベースより)
GDPの大きさなど、もはやどうでもいい。グローバル化が進む中で成熟化する初の先進国、それが日本だ。後に続く国々に「モデル」を示せるか。碩学と気鋭の教授が語り尽くす。

日本を滅ぼす〈世間の良識〉 (講談社現代新書)



大手メディア(マスゴミ)、官僚、政府、公益企業に対する怒りを代弁

「COURRiER Japon」誌の連載「越境者的ニッポン」を新書化したもの。オーストラリア在住の自称チューサン階級(中学3年生程度の知識の持ち主のこと)の著者が、大手メディア(マスゴミ)、官僚、政府、公益企業(東電など)に対する怒りを代弁してくれる。言葉遣いがやや下品だったり、下ネタがかったりしているが、本質を突いているので全く気にならない。
特に「利潤の私益化・費用の社会化」こそが、なぜ日本がほぼ回復不可能な財政赤字状態に陥ったのかを的確に表している。官僚や公益企業、大企業の経営層など一握りの人間どもが、国民の利益を吸い上げて私物化し、そのために掛った費用は国民のツケに回しているということだ。これは過去においてもそうであるし、現在も続けられていることだ。
「民営化」とはそれまで社会資本だったものが、一部の人たちだけの私有物とされることにほかならない。元々税金で作られたものにも関わらずである。鉄道、電話網、郵便事業などすべてが同じ構図である。
このような不公平(不正と言うべきか)なことが行われないように「権力の監視」をすることが、大手メディア(マスゴミ)などジャーナリズムの使命だが、日本のである「権力の監視」をせず、大手メディア(マスゴミ)は、お上から垂れ流されるリーク情報だけを報道する発表ジャーナリズムに終始する。その原因は野中広務が明らかにしたように、記者たちが政府からは「官房機密費」を受け取り、公益企業(東電など)からは接待漬けになっていることによる。
何がどう報道されたかも重要だが、何が報道されなかったかも重要である。昔は新聞・テレビの報道がすべてだったが、今はネットメディア、海外メディアなどから情報が得られる。大手メディア(マスゴミ)が何を報道しなかったかもすぐ分かる。それは自分たちに都合の悪いことで国民に知らせたくなかったことだと考えて間違いないのである。
著者はこの日本の状況を「おとーちゃんばかりがお饅頭を食べる思想」と表現する。また、フランツ・ファノンの「無知というのは知識がないことではない。疑問を発せられない状態を指す。」を引用して、日本国民が「世間の良識」に縛られて、疑問を発せられない状態に陥っていると言う。
大手メディア(マスゴミ)の報道によって形成される「世論」、自分たちの都合の良い「世論」を形成し自分たちの取り分を増やすことしか考えない官僚、政府、公益企業ども。結局のところ大手メディア(マスゴミ)の無責任さが最も責任が重いということではないのか!


警察の任意とは警察官の任意ではないのか
力士が大麻を吸って全員の尿検査が行われたが、押尾学、のりピー事件では芸能人全員の尿検査は行われなかった

第5章に福島原発事故に関して「承諾しがたき現実であろうとも、それが現実である限り、ひとまず承諾するしかない。」と書かれているが、同じことを小出裕章氏も「原発のウソ」で書いていた。
a little bit pregnantちょっとだけの妊娠だから大丈夫=ただちに健康に影響を与えるものではない=現時点では大丈夫だがいずれそうなる状態のこと
after me the deluge後は野となれ山となれ=すべてのツケは後から国民が払いなさい

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内容紹介
嘘つきメディア、舐めた政府、踊る国民 そろそろ現実を見ないか?
真の愛国とは、こういうことだ!
世界中の賭場を攻める博奕打ちが、迷走を続ける日本のいまを縦横無尽に斬る痛快コラム集。
「世間の良識」が国を滅ぼしかけている事実に、いまこそ刮目せよ!
The Party Is Over.
怪人モリスがこの国の"今"を一刀両断!
どうやら日本国内では、おかしなことに気づかない(あるいは、気づかないふりをしている)ほうが安全なようだ。それゆえ、おかしな部分が見えてきだすと、自動的に制御がかかる。見えているのに、見えないこととする。自衛本能による、メンタル・ブロックなのだろう。知らねば、その事象は存在しないことと同義だ。――<本文より>
無知というのは知識がないことではない。疑問を発せられない状態を指す。――(フランツ・ファノン)
勇気を持って、事実を見る――(チャールズ・ダーウィン)

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目次
第1章 この国は必ず沈没しますけど,なにか?
 利潤の私益化・費用の社会化(1)
 利潤の私益化・費用の社会化(2)
 日本沈没あとバカ理論
 論理が転倒した嫌な時代になりました
 国民が国と心中するしかないのだから

第2章 大手メディアの正体見たり
 自国メディアの不甲斐なさを他国メディアによって知る
 沈黙は「金」,ただしこれは「カネ」と読む
 こうやって国は滅びていくのだろうな

第3章 鳴呼,すばらしき世間の良識(笑)
 のりピー報道ヒステリーについて考えてみた
 再度のりピー・押尾事件について考えてみた
 「新」と「怒」という監事について,勝手に考えてみた
 史上最強となりえた横綱を殺したのは,誰か? 
 国技と文化的伝統を継承するために

第4章 日本はホントに民主国家なのでしょうか?
 神も歴史も畏れぬ不届き者たち
 任意とは,いったい誰の任意なのだろうか?(1)
 任意とは,いったい誰の任意なのだろうか?(2)
  いわゆる「北方領土」について,チューサン階級も考えた
 憂国の情,抑えがたく

第5章 被曝上等,御意見無用
 大本営原発部発表「大丈夫・心配ない・安全・ただちに健康に・・・」
 安全基準値と規制値を大幅に引き上げたので,もう安心です
 放射能みんなで浴びれば怖くない,って言われても,ちょっとねえええ・・・
 まだ誰も,塀の内側でしゃがんでいない
 胡桃の木と日本人は叩けば叩くほど収穫できる,のか?
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内容(「BOOK」データベースより)
嘘つきメディア、舐めた政府、踊る国民、そろそろ現実を見ないか?
The Party Is Over. 怪人モリスがこの国の"今"を一刀両断。

官僚の責任 (PHP新書)



無責任官僚の姿が見えてくる、今こそ官僚制度の膿を出す良い機会だ

著者はいわゆるキャリア官僚だが、福田内閣で国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任し、渡辺喜美行政改革担当相の下で急進的な公務員制度改革に取り組んだという経歴を持つ。そのため、経済産業省大臣官房付という閑職に置かれ、辞職勧告を受けていたが、ついに退職の道を選んだ。

官僚というと、城山三郎の「官僚たちの夏」に描かれた日本の産業発展のために働いた通産官僚をイメージしてしまうのだが、本書を読むと実際には大違いであることが良くわかる。国益や国民の利益ではなく、省益や私益を優先し所属省庁の権限拡大、予算拡大、天下り拡大などのためにしか働かない人間たちである。
なぜそのような行動を取るようになってしまうのかについて、著者は官僚の評価基準が国民のために働いても評価されない仕組みになっているからだという。もちろんそういう輩ばかりではないだろうが、全体としては国民のためにならない官僚が圧倒的に多いということは間違いないようだ。

今回の東日本大震災、特に原発事故への対応に関して、政府・政治家だけではなく経産省、原子力・安全保安院の官僚への不信・不満を募らせた国民は多いはずだ。政治家は選挙によって国民の審判を受けるが、官僚は滅多なことでは辞めさせられない。担当業務に精通し責任感を持って遂行しているはずだと信じていたのに、東電や原発関連企業と癒着し、自分たちの責任回避ばかりを優先している。大手マスゴミは極力そういう報道を避けているが、無責任な官僚の姿が見えてくる。
東日本大震災、原発事故は、日本国民にとって非常に不幸なことだったが、官僚制度の膿を出す良い機会ではないだろうか。

その他で印象に残ったのは、
・民主党は、要するに官僚を使いこなせなかった。「政治主導」とは「すべてを政治家がやること、官僚を排除すること」ではなく「官僚を"従"たる位置においてうまく使っていくこと」だが、それができなかった。「ウソつきではなく勉強不足」である。変えようという意識は強かったが、「変える」=「自民党や官僚を否定すること」と勘違いしていた。
長妻元厚生労働大臣についても、省内に味方を作れなかったことが敗因だ。大臣と政務三役だけで改革することは不可能である。
・守るべきでない者まで守る政策が行われている。自立能力を失い淘汰されるべき企業が、補助金と呼ばれる政府の支援によって市場にとどまり、結果的にその産業の発展を妨げている。
・大手自動車メーカーの経営手法は日本経済にとってプラスとは思えない。儲かっているのはそのメーカーだけで下請けメーカーは儲かっていない。
・精密ネジの製造機械の中小企業の例を挙げて「世界一の製品は世界一高くても売れる」という考えを持つべきだ。良いものを安く提供するのが我々の使命という文化が染みついている。
などである。

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内容紹介
辞職を迫られた改革派官僚"覚悟の証言"
「霞が関は人材の墓場」――著者はそう切り捨てる。最高学府の卒業生、志を抱いて入省したはずの優秀な人間たちが集う日本最高の頭脳集団。しかし彼らの行動規範は、「国のため」ではなく「省のため」。利権拡大と身分保障にうつつを抜かし、天下りもサボタージュも恥と思わない......。いったいなぜ官僚たちは堕落の道をたどるのか?逼迫する日本の財政状況。政策提言能力を失った彼らを放置すると、この国は終わる。政官界から恐れられ、ついに辞職を迫られた経産省の改革派官僚が、閉ざされた伏魔殿の生態を暴く。
【内容例】「震災復興は利権のチャンス」――悲しいかな、それが官僚の性である/「5.7メートルで安全」と決めたのは経産省/天下りは国民に気づかれないようにこっそりやっている/なぜ政治家は官僚に取り込まれるのか/坪単価5,000万円、充実しすぎの身分保障/「不夜城」の真実 etc.

新・堕落論―我欲と天罰 (新潮新書)



堕落というより幼稚化だ

東日本大震災に際して、著者が「天罰」と発言し物議を醸したことは記憶に新しい。被災者に対してではなく、日本人全体に対する言葉だということは容易に理解できたが、大手メディア(マスゴミ)は例によってバッシングに終始した。本書は副題にその「天罰」という言葉が使われているが、巻末を見ると、第1章の原文は文藝春秋2010年12月号「日本堕落論 このままでは日本は沈む」だ。つまり震災前から天罰という言葉を使っていたわけであり、震災の被災者に対するものではないことは自明である。
著者の本を読むのは初めてだが、難解な言葉と一般的でない外来語のカタカナ表記(例えばセンチメント)には正直なところ閉口した。
著者は「平和の毒」が日本人全体を蝕んでいるという。アメリカという間接的支配者に国家の自主性を委ね安易な他力本願が平和の毒を培養したのだと指摘する。大人たちの物欲・金銭欲・性欲、経済至上主義、ゆとり教育による教育の荒廃が日本を堕落させており、占領軍によって与えられたあてがい扶持の憲法を最良のものと信じ込まされている。アメリカにすべてを依存するという徹底した他力本願と自己放棄が今の日本の姿である。
かなり偏った考えだと糾弾する意見も多いかもしれないが、上辺だけは平和な日本の姿を保ちながら、最近でもTPPなどを利用したアメリカ(国家や政府や富裕層など)の日本支配・侵略が着々と進められている。従来から、アメリカ(国家や政府や富裕層など)の日本に対する考えは、対等なパートナーではなく、富を搾取する対象である。
福田和也の言葉「なぜ日本人はかくも幼稚になったのか、幼稚とは何が肝心かということが分からないもの」を引用して紹介しているが、日本人は堕落したというより幼稚になったという方が正しいかもしれないと感じた。

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内容(「BOOK」データベースより)
列島を揺るがせた未曾有の震災と、終わりの見えない原発事故への不安。今、この国が立ち直れるか否かは、国民一人ひとりが、人間としてまっとうな物の考え方を取り戻せるかどうかにかかっている。アメリカに追従し、あてがい扶持の平和に甘えつづけた戦後六十五年余、今こそ「平和の毒」と「仮想と虚妄」から脱する時である―深い人間洞察を湛えた痛烈なる「遺書」。

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